耳の病気について
耳の機能には、音や声を聞き取る聴覚と、体のバランスを保つ平衡感覚があります。
これらが悪くなると「難聴(耳が聞こえにくい)」、「耳鳴り」、「めまい(目が回る、体がふらつく)」などの症状がおきます。
また、耳に細菌や、カビ(真菌)、ウイルスなどの感染症がおこったり、耳そうじなどの刺激により、炎症が起きると、「耳の痛みやかゆみ」「耳から汁が出る」「発熱」、「耳が赤くはれる」などの症状がおきます。
子供に多い中耳炎や、大人の方が耳そうじのしすぎでおこる外耳道炎などがこれにあたります。
耳あかをとりにこられる方もいますし、お子さんが小さなおもちゃを耳に入れてしまい、とれなくなって来院されることもあります。
1.急性中耳炎
急性中耳炎とはどんな病気?
鼻の奥は耳の鼓膜の奥(中耳:ちゅうじ)と耳管(耳管:じかん)でつながっており、この管を通して風邪などの時に、鼻から耳に細菌やウイルスが入り込むことにより、急性の炎症がおきて膿(うみ)がたまる病気です。
風邪による鼻の炎症で発症することが多いです。
お子様の場合は、この耳管が太くて短いので、風邪とくにあおばな(黄色や緑色の鼻水)がでたら中耳炎になりやすいです。
耳の痛み、耳だれ、耳のつまった感じ、発熱などが起こり、3歳以下のお子さんの70~80%は一度はかかる病気です。
治療方法
耳を消毒し、鼻水を吸引してばい菌の数を減らします。
また、抗生物質の飲み薬や、場合により点耳薬を使用します。
かぜの症状があればかぜ薬も併用します。
鼻水を吸引して鼻の中をきれいにすることで治りが早くなるため耳鼻咽喉科を受診してください。
ご注意いただきたいこと
運動したり、体があったまると、炎症がひどくなって耳が痛くなることがあります。
中耳炎があるときには、入浴や運動は控えるようにしてください。
また、医師の許可が出るまではプールは控えてください。
通常、完全に治るまでには約1週間程度はかかり、お子様の場合、治療期間が長引くことも多いです。
急性中耳炎の治療を怠ると、慢性中耳炎など、より重い病気になることもありますので、医師の指示を守り、確実に治療することが大切です。
また一度急性中耳炎になったお子様は繰り返しやすいので、風邪をひいたら早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
2.滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)
滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)とはどんな病気?
鼓膜の奥(中耳)に液体がたまる中耳炎です。
液体がたまると、鼓膜やその周辺の骨の動きが悪くなり、高い山に登ったり、トンネルに入ったりした時のような、耳のつまった感じや、聞こえにくさを感じます。
自覚症状に乏しいため、お子様の場合は発症に気づかず放置されると深刻な難聴を引き起こすこともあります。
中耳は耳と鼻をつなぐ耳管をとして換気をしていますが、この換気が悪くなると怒ります。
原因は副鼻腔炎や風邪などで耳管の機能が低下したり、アデノイドや鼻の奥に腫瘍ができて耳管の入り口をふさいで換気できなくなるためです。
子どもや高齢者はこの働きが弱いため起こりやすいです。
かかりやすい方
急性中耳炎が治りきらなかった場合や、鼻をすする癖のある方、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の治療が不十分な方は注意が必要です。
治療方法
鼻水を吸い出して鼻の通りを良くする処置をした上で、吸入(ネブライザー)により鼻とのどの炎症をおさえる治療を行います。
お薬の内服しながら鼻の中をきれいにしていき、鼓膜の奥(中耳)にたまった液体の排泄を促します。
また、鼻の奥で、耳とつながっている管(耳管)を通して鼻から耳に空気を通す治療を行う場合もあります。
それでも治りが悪い場合には、鼓膜に穴をあけて液体を吸い出したり、鼓膜にチューブを長期間入れたままにして、液体を出し続ける治療を行うこともあります。
当院では小さなお子様でも鼻水を吸い取りやすくするようなお薬を使いながら処置を行い、滲出性中耳炎の治療を行います。
お子様は特に発症に気づかないまま放置されることも多く難聴をひきおこすこともあるため注意が必要です。
ご注意いただきたいこと
水を飲み込む動作、あくびをすることで鼻と耳をつないでいる管が広がり、鼓膜の中の中耳の圧力を調節することができます。
少量のお水やお茶を飲み込むことで滲出性中耳炎の改善がしやすくなります。
また、当院で行う処置を継続して行うことも大切です。通院頻度を守り、しっかりと治療しましょう。
症状の強い時にはプールを控えましょう。
その時その時で状況は変化しますので、プールの再開などについては耳鼻咽喉科を受診し医師にご相談ください。
3.耳あか(耳垢栓塞)
耳あか(耳垢栓塞)とはどんな病気?
外耳道に耳あかがたまった状態です。
耳の異物感、つまった感じ、聞こえにくさなどが起こることがあります。
治療方法
当院では耳の中の状態を患者様にもしっかり診ていただきながら、耳あかをていねいに取り除いていきます。
硬い耳あかがつまって取れなかったり、痛みをともなったりする時には、耳あかを柔らかくするための点耳薬などを使ってから少しずつ除去することもあります。
耳掃除をご自身で行うことにより、外耳道(耳の穴の皮膚)に傷をつけてしまったり、かえって奥に押し込んでしまうこともあるため、耳掃除は耳鼻咽喉科を受診ください。
ご注意いただきたいこと
お子様は急に動いてしまい、耳そうじで耳を傷つけたり痛めたりしてしまうこともあります。
また耳あかを奥に押し込んでしまってうまくとれていないこともあります。
耳あか取りだけの受診も大丈夫ですので、お気軽に当院を受診ください。
4.外耳道炎
外耳道炎とはどんな病気?
外耳道(耳の穴から鼓膜まで:耳あかがたまる場所)が、傷ついてばい菌やカビ(真菌)により腫れたり、炎症を起こす病気です。
多くの場合、耳掃除のしすぎ、耳かきや爪で外耳道に傷をつけることにより起こります。
症状は痛み、かゆみ、耳だれ、耳のつまった感じ、耳鳴り、聞こえにくい感じです。
痛みが強くなると眠れないほどの痛みを伴うこともあります。
治療方法
治療としては、外耳道の消毒、抗生剤の入った軟膏や点耳液を使います。
ひどい時には抗生剤の飲み薬や、かゆみが強い時にはかゆみ止めの飲み薬が必要になることがあります。
ご注意いただきたいこと
外耳道炎で治療を受ける方は、耳掃除をしすぎている方が多いです。耳掃除をしすぎると、こすれてすり傷になり、ばい菌が外耳道で増えて悪さをし、かゆみを引き起こす原因となります。
お風呂で耳に水が入り翌日になっても気になるようなら、耳鼻咽喉科を受診してください。
通常の耳掃除は、2~3週間に1度が理想的です。
特に外耳道炎がある方は、完治するまでは耳をさわらないようにし定期的に耳鼻咽喉科で処置を受けてください。
耳掃除だけでもお気軽に耳鼻咽喉科を受診ください。
耳かきや綿棒で耳を触らないようにし、耳から耳だれが出る場合にはやさしくティッシュペーパーで拭き取りましょう。
耳の詰まった感じや痒みが気になる方は早めに受診してください。
5.突発性難聴
突発性難聴とはどんな病気?
突発性難聴は、
- 突然に発症する
- 原因不明
- 耳が聞こえにくくなる
という3つの特徴を持つ病気です。
内耳の蝸牛(かぎゅう)から、音を脳に伝える神経:聴神経(ちょうしんけい)にかけての難聴を引き起こす病気です。
原因は、内耳や聴こえの神経への血流障害や、ウイルスの感染による障害、ストレスなどが考えられていますが、よくわかっていません。
症状としては、突然耳の聴こえが悪くなったり、耳がつまってふさがった様な感じになって発症します。
その他の症状としては、耳鳴りや、約3割程度の人にめまい、吐き気、嘔吐を伴うことがあり、転倒や事故がないように、注意が必要です。
治療方法
突発性難聴は、1週間以内(特に3日以内)の早期治療を開始することが重要です。
2週間程度変動することが多く、約一ヶ月で聞こえが完全に固定してしまう場合が多いです。
治療効果には個人差があります。
完治する方は3分の1、多少の改善がみられたが後遺症が残ってしまう方が3分の1、全く改善が得られない方が3分の1、とも言われています。
早期治療を開始した方、若い方、程度の軽い方に聴力の改善が得られやすく、治療が遅れた方、ご高齢の方、めまいを伴う方、糖尿病などをお持ちの方は、治りが悪いといわれています。
一日でも早く(出来れば発症3日以内、遅くとも1週間以内に)治療を開始すること、早期発見早期治療が重要です。
耳の聞こえにくさを感じたら早めに時耳鼻咽喉科を受診してください。
①薬物治療
聴神経を栄養するといわれているビタミンB12や神経の炎症を改善するための副腎皮質ホルモン(ステロイド)です。
その他、循環改善剤、めまいのある方はめまい止めを使用することがあります。
早期で軽症であれば飲み薬の内服で治療をおこないます。
時間が経過していたり、中等度以上の難聴を認める場合や心疾患、糖尿病などの基礎疾患のある方の場合、入院での点滴治療をおすすめしております。
特に重度の難聴や、めまいなどの合併症がある方は、治りが悪いことも考えられ、入院の上治療をする事が必要です。
なお入院が必要な方や、ご希望のある場合には、連携している病院をご紹介いたします。
※ステロイドの副作用としては、胃炎や胃潰瘍、血圧の上昇、糖尿病の悪化、顔のむくみ、免疫機能の低下による感染症、骨がもろくなっているご高齢の方の骨折などがあげられます。
短期間の使用で、徐々に減量していくため、副作用が出ることはまれですが、当院では患者様にご理解・ご納得いただいた上で薬を選択し治療を行っていきます。
②心身の安静
神経のダメージが進む1~2週間は疲れをとり、重労働や精神的ストレスが加わらないようにすることが大切です。
※神経性の難聴の方の中には、ごくまれに聴神経腫瘍の方が存在し、頭部のMRI検査で発見されることがあります。
突発性難聴を繰り返す方、ご心配な方、ご希望の方は、連携している病院をご紹介致します。
6.耳鳴り
耳鳴りとはどんな症状?
実際には音がしていないのに、「キーン」という音や「ジー」という音を感じる症状を耳鳴りといいます。
低音または高音、持続するもの、断続的なものなど色々な耳鳴りがあります。
耳の病気と共に起こるものが一番多く、ホルモン異常や高血圧や低血圧などの血圧の変化、動脈硬化、糖尿病などの全身的な原因で起こることもあります。
代表的な耳の病気としてメニエ-ル病や突発性難聴、内耳の病気、中耳炎などの中耳の病気が原因となります。
加齢変化としての年相応な難聴にも耳鳴りをともなうことがあります。
治療方法
治療方法は、原因によって異なります。
特に難聴、めまいをともなうような、内耳性の耳鳴りは早期に治療することが大切です。
主に、循環改善剤、ビタミンB12、漢方薬などを用いながら患者様に応じて薬物療法を行います。
早期治療を行うことで、軽快することもありますので耳鳴りが起こったら早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
ご注意いただきたいこと
難聴をともなうような、内耳性の耳鳴りは、疲れや体調不良によっても症状が悪化することがあります。
また、耳鳴りの音を気にして聞こうとすると、より耳鳴りが大きく感じることも多いです。
疲れ、ストレス、睡眠不足などがないように注意し、できるだけ耳鳴りを気にしないようにしてお過ごしいただくことが大切です。
7.耳管開放症
耳管開放症とはどんな病気?
鼻と耳は、奥の方で耳管という細い管でつながっており、通常はほとんど塞がっていて空気の通りがない状態になっていますが、つばを飲み込むと耳と鼻が通った感じがします。
これは耳管が開いたことによって起こります。
トンネルに入った時やエレベーターに乗った時など気圧が急に変化すると耳が詰まった感じになり、つばを飲み込んだり、あくびをすると治るという経験をしたことがあると思います。
耳管開放症というのは耳管が開きっぱなしになった状態です。
原因は急な体重の減少や妊娠、ストレスなどで発症することが多いです。
症状は自分の声が響いて聞こえたり、耳が詰まった感じが続きます。
自分の声の音量を調整しづらいなど日常生活の会話などに違和感を感じます。
寝転んだり、おじぎなど頭の位置を下げると、症状が改善することがあります。
治療方法
漢方を長期間(3ヶ月程度)飲むことで、症状が治まることがあります。
また、症状が軽い場合は経過観察で様子を見ることもあります。
ご注意いただきたいこと
耳管開放症で注意しなければならないことは「鼻をすすらない」ということです。
耳管開放症は、耳管が開いている状態で、鼻をすすると鼓膜が特に引っ張られやすく、鼓膜が凹んでしまいます。
この凹みに炎症を起こして重篤な病気を引き起こすことがあります。
8.顔面神経麻痺
症状
耳の周りから顔にかけて、顔の筋肉を動かす神経の顔面神経が通っています。
この神経によって我々は、顔の表情を作ったり、目を閉じたり、口びるを動かしたり表情をつくることができます。
この顔面神経が麻痺すると、「顔が動かなくなった」、「口角から水がもれる」、「目を閉じられなくなった」などの症状がおきます。
原因は、事故や外傷の他、顔が冷たい空気にさらされたり、ウイルス感染が関係しているといわれています。
皮膚の病気である単純ヘルペスウイルスや帯状疱疹のウイルスが原因となって顔面神経麻痺がおこることがあります。
帯状疱疹のウイルスは体の神経節にひそんでいて、疲れやストレスで体の抵抗力が低下した時などに再活性化し、おとなしくしていたウイルスが暴れだし神経を障害することにより病気をおこします。
「顔面神経麻痺、耳の水泡(帯状疱疹)、難聴、耳鳴り、めまい」などの症状がおこる病気を、特にラムゼイハント症候群と言います。
治療
神経に栄養を与える目的に、ビタミンB、循環改善剤、神経を保護する目的にステロイドを使用することがあります。
ラムゼイハント症候群の場合には、帯状疱疹ウイルスが原因とされており、この場合には、抗ウイルス剤を使用します。
入院治療を必要とすることもあり、病院へのご紹介もいたします。
お気をつけいただきたいこと
顔面神経麻痺は、早期治療が大切です。
発症3日以内の耳鼻咽喉科受診、治療開始が大切です。
早期治療を行うことで、改善する可能性が高まります。
治療効果には個人差があります。
治療を行っても改善のなかった方でも、2~3年をかけて、徐々に改善が見られる方もいらっしゃいます。
また顔面神経麻痺からの回復のためには、筋肉のこわばりをとるための適切なマッサージ、顔の運動訓練などのリハビリテーションも大切です。
顔の動きがわるくなったとのことで形成外科を受診する方もおられますが、顔面神経の通り道の大部分が耳の骨、耳下腺、顔面にありこれらはすべて耳鼻科の領域内にあります。
この神経に何らかの異常が生じて顔面神経麻痺が起きるため、お顔の動きが気になったらできるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してご相談ください。